山ねこ拝

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彼女から100年後の世界を生きる私たちは、「自分ひとりの部屋」を手に入れたのか?[書評]自分ひとりの部屋(ヴァージニア・ウルフ)

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『自分ひとりの部屋』…このタイトルに惹かれて買いましたが、読むうちにどんどん惹きこまれてしまいました。読み終わると「部屋」の意味するところが変わってしまうほどに。

 

作者のウルフは今から100年前のイギリスの女性作家です。『ダロウェイ夫人』『灯台へ』など優れた作品をのこした人です。(日本でも昨年、PARCOプロデュース・多部未華子さん主演で『オーランドー』の演劇が上演されています。)

 

でも今回紹介する『自分ひとりの部屋』は小説ではありません。46歳のウルフがケンブリッジ大学の女子学生への講話をエッセイのような形にまとめたものです。実はこの年1928年、イギリスで初めて女性の完全参政権が認められた年でした。そんな背景から、若い女性たちへの強いメッセージ性に満ちています。

 

『自分ひとりの部屋』ヴァージニア・ウルフ著・平凡社ライブラリー

https://www.amazon.co.jp/gp/aw/d/4582768318/

 

語り手であるウルフは、朝のケンブリッジ大学の美しい庭を歩きながら「女性と小説」という講演のタイトルに疑問を持ち始めます。大英博物館にて女性について書かれた過去の批評を読み、あきれ、憤り、クスッと笑い、ウイットに富んだ突っ込みをするようすは批評家としてのウルフの真骨頂。

 

そしてたどりついた答えが…

 

「女性作家に必要なのは、500ポンドの年収と、自分ひとりの部屋」。

 

まず自分で生活していける年収を得ること。そして誰かの世話を焼き、つねに関係性の中でものを考えることから切り離された「自分ひとりの部屋」をもつこと。

 

彼女は学生たちに語りかけます。もし17世紀、シェイクスピアに妹がいたなら、彼女の人生は最後に十字路で埋葬されるような悲惨なものであっただろう、と。かくいうウルフは、生涯精神の病に苦しみ、59歳で自殺しました。しかし彼女の作品はイギリスの文壇で高い評価を受け、100年後にも世界中で読まれつづけることになりました。

 

講演の最後、ウルフの想像力の翼にのって、わたしたちは100年前に生きた架空のシェイクスピアの妹へ、そして100年後を生きるわたしたち自身の心へと運ばれます。

  

"さて、わたしの信念はこうです。一語も書かずに十字路に埋葬されたこの詩人は、いまなお生きています。みなさんの内部に、わたしの内部に、食器を洗い子どもを寝かしつけるためにこの場にいない、他の数多くの女性たちの内部に、生きています。ともかく彼女は生きています。というのも、優れた詩人というのは死なないのです。いつまでも現前し続け、チャンスを得て生身の人間となり、わたしたちと歩むときを待っています"

 

"わたしたち側の努力がなかったら、彼女が蘇ったときに生きて詩が書けると思えるようにしておこうという決意がなかったら、彼女ら出現できず、期待はかないません。でも、彼女のためにわたしたちが仕事をすれば、彼女はきっとくるでしょう。だからこそ貧困の中で誰にも顧みられずに仕事をしたとしても、そこにはやりがいがあるーと、わたしは断言するのです。"

 

 1828年のこのウルフの講演から、もうすぐ100年が経ちます。女性をとりまく環境は変わりました。しかしウルフが理想としたように、真の意味で女性たちが自らのことばを自由に語り、全力で生きている状況にあるかを考えてみると、少し考え込んでしまいます。

 

今を生きるわたしは、自分ひとりの部屋をもち、自分の言葉で語っているのだろうか。そのための努力が、仕事が、できているのだろうか。自分の生涯をかけて自らのことばで語ろうとしたウルフ。心が震える作品です。

 

『自分ひとりの部屋』ヴァージニア・ウルフ著・平凡社ライブラリー

https://www.amazon.co.jp/gp/aw/d/4582768318/

 

お題「好きな作家」